【楽曲解説】12_ヨルガ

このアルバムの中で一番最初に原型ができあがっていた曲。ヨルガ、睡晶という、帝都を支えるエネルギー源といわれるこの鉱石、通常のエネルギー保存の法則を無視するほどの力を秘めた「睡晶」とは、一体何の結晶なのか。1曲目の「セカイは僕の睛の中の映画」が帝都の地上や風景を描いた表テーマだとすれば、この「ヨルガ」は地下、深い鉱脈と形而上的な何か、世界の裏面をあらわすグランドテーマと言えるでしょう。採掘後の地下坑路に水が滴るような深いリバーブとみとせのりこの声質をそのまま活かした硬質なヴォーカル、世界の深淵にまさしくスイショウのように響く曲です。(みとせ)

どんなプロジェクトにおいても、最初に作る曲というのはその後に作る曲の流れを決めてしまうことがあるので、とても気を使うものですが、今作はみとせさんの歌声という揺るぎない大きな存在がありましたので、まずは声を存分に生かしたメロディを、そして既に明確だった世界観の中で、ヨルガという鉱石に相応しい曲を、ということで、漠然と作り始めるのではなく、明確なイメージで作り始めることが出来ました。ピアノとハープによるアルペジオ(分散和音)とその残響音が、睡晶の鉱脈を映し出します。(弘田)

【楽曲解説】11_U.M.T.(inst.)

インストの2曲についてはコンセプトだけは先に聞いていて(唄録り後の一杯を飲みながら…ただ飲んでるだけじゃなくてちゃんと打ち合わせも兼ねてるんですよ!!)、その際タイトルについて相談を受けたので、こんなのはどうだろう、という案を出しましたが、コーラスも入っていないこの曲についてはわたしは基本ノータッチ、弘田さんにお任せでした。もう1曲のインスト「curclation」はわたしの案ですが、この「U.M.T.」という暗号めいたタイトルは弘田さんがつけたもの。それぞれの文字が何の略なのかを考えると、ヨルガというものの本質が見えてくる、そんな気がします。(みとせ)

収録曲の中で一番最後に作った曲です。最初に作った「ヨルガ<睡晶>」のモチーフを使ったアレンジなのですが、ヨルガという鉱石のイメージを、短いながらも凝縮した曲が出来たかなと思っています。ピアノとハープにベースのハーモニクスが重なるシンプルな編成の曲。ハーモニクスとは、振動する弦の特定箇所に軽く触れて基音と幾つかの倍音を抑制する奏法です。チューニングする時などに使われますが、この曲のように音階を奏でることも可能です。(弘田)

【楽曲解説】10_狐-キツネツキ-月

京都は伏見の出身の弘田さんが伏見稲荷が魂の故郷と仰るので、じゃあキツネの曲を入れましょう、と、ただ「キツネ」というキーワードだけを渡して書いてもらった曲です。跳ねるような曲調にトリッキーな部分変拍子、このパートはこんなイメージ、とメモを書き留めながら聴いて、後からそのメモを詞に起こそうと思ったら、起こす必要がないくらい譜割も展開もほとんどぴったり嵌っていました。うーん、おキツネさまの怪。弘田さんのベースと壷井さんのヴァイオリンの掛け合いや、みとせと弘田さんのコーラスなど、生っぽい聴き所も満載。ちなみにタイトル、右から読んでも左から読んでもキツネツキでございます。(みとせ)

幼少の記憶を思い起こしつつ、わずか二時間ほどで出来上がった曲です。子供の頃は毎日のように、稲荷山に登って遊んでいました。稲荷大社の周りは商店が多く普通の町なのですが、表参道の大鳥居をくぐり、本殿のある境内を抜けると、そこは幽玄で幻想的な朱の世界。千本鳥居をくぐり、くねくね道を行くと、三ツ辻、四ツ辻、どんどん人気(ひとけ)の無い山の奥に入って行きます。たまにわら人形などが落ちていて怖い思いもしましたが、山の中腹から京都の町を見下ろす景色は絶景です。むば玉の くらき闇路に 迷ふなり われにかさなむ 三つのともしび、という後醍醐天皇の有名な歌碑などがあります。なんか楽曲解説じゃなくて、観光案内になってしまいましたね。(弘田)

【楽曲解説】09_天上への祈り

みとせといえばこういう賛美歌系のイメージをお持ちの方もおいでと思います、まさしくみとせのりこの薄造り(笑)みたいな曲です。歌詞にも賛美歌的な言い回しがぽつぽつ入ってはいるのですが、基本多神教の日本、かつ科学によってそれらの感覚が麻痺した現代人、或いは様々な挫折や不運によって信仰を叩き折られた者にとって、神というのは目に見えない何か大きな力、でしかないのだろうと思います。ただそれでもやはり人は祈る。いるとも知れぬ神に、誰とも知れぬ神に。裏切られても傷ついても、目の前で泣いている悲しんでいる傷ついている人がいれば、どうかこの世界に棲む者たちが安らかであるようにと、そう祈らずにはおられないのです。(みとせ)

「祈り」は、国家、特定の宗教、無宗教の価値観念に関わらず、人間の根源的な欲求に基づいた普遍的な行動です。古代から、また未来永劫、人類は様々な思いを祈り続ける事でしょう。そういう意味では、ヨルガ世界における「祈り」も、我々の住む世界の「祈り」も根源的には同質のものであるかと思います。この曲の仄暗く荘厳な和声と旋律を、みとせさんは見事なまでに美しく歌い上げて下さいました。冒頭の鐘の音はチベットシンバルによるものです。(弘田)

【楽曲解説】08_眠り病

意外な曲に化けちゃったシリーズ(笑)その2。当初は静かで眠りを誘うような浮遊感がありつつ、でもどこか不安定で毒を秘めた曲、というイメージで考えていたのですが、上がってきた曲はまさしく「弘田節全開」。自分のイメージを一旦捨てて楽曲にシンクロした結果こんな歌詞になりました。しかも脳内で聴こえたままのハモをつけたら全音でぶつかるトンデモコーラスに。みとせのりこ受信しすぎです。けれどそんなわたしの大暴れもきっちり内包してしまう弘田さんの楽曲とアレンジの深さに、この人やっぱり鬼才というか異能の人だなあと再認識したみとせでありました。(みとせ)

最初は静かな曲のイメージで作り始めたのですが、「眠り病」の起因などを想像して行くと、だんだんドラマチックなアレンジになって行き、ある意味、アルバムの核心、クライマックスとも言える曲に仕上がってしまいました。ガムランのイントロに始まり、耳鳴りのような正弦波の高音が重なる。この耳鳴り音は楽器音とぶつかってもおかまい無しに一曲を通して入っています。後半、みとせさんの声がアラベスクのような幾何学紋様のように折り重なり、変容して行く様が聴きどころかと思います。(弘田)

【楽曲解説】07_蘇州夜曲

みとせのりこの唱歌好き、大正昭和歌謡好きのせいも勿論ありますが、帝都という舞台に時代の空気を表すため1曲カヴァーをということで入れた曲。何曲か候補をあげた中から弘田さんが選んだ曲が「蘇州夜曲」でした。候補曲をアカペラで唄ったデモを送りつけて(笑)選んでもらったせいか、アレンジがついても出だしはアカペラに。アルバム中では帝都で人気の女優が吹き込んだレコォドがラジオから流れているような、そんなイメージで聴いて頂きたい曲です。(みとせ)

私にとってこの曲のアレンジはなぜか夏のイメージなのです。強い日差しによるコントラストの深い風景。暑さと気だるさ。でも建物や木の影は、ひんやりと涼しく、どこかの蓄音機から流れてくるこの曲に耳を傾けて「東洋のヴェニス」と呼ばれる水の都、蘇州の夜に思いを馳せるような。ちなみにカヴァー曲の候補「夜来香(イエライシャン)」とこの曲で迷ったのですが、アルバムの構成上スローでしっとりとしたものを入れたいなと思い、こちらを選びました。(弘田)

【楽曲解説】06_桜散ル夜~ハナチルヤ~

曲をもらって再生ボタンを押した瞬間、ヴァイオリンのかけあがりを聴いて「ベ〇ばら」始まった!と思った発想が貧困なわたくしです。西洋的な音色とクラシカルな半音メロディに、相反する和の要素を満載した歌詞がのって、まさしく和洋折衷文化華ヤカなりし大正のかほりも高い1曲になりました。恋は溺れてこその華、生命かけなば興醒めと申しますが、こういった曲も半端にやったらかえって興が醒めるというものです。思い切り大正浪漫の世界に浸って頂きたいと思います。(みとせ)

大正浪漫な曲をと考えつつも、それにエレクトリックなサウンドも混ぜるとどうなるのか。と、このようなアレンジに。作り始めた時はテンポがもっと遅かったのですが、だんだん上がって倍近いスピードの曲になりました。拍子も3拍子から6/8拍子に変わってしまいました。あと同時進行で某戦隊ものの曲も書いていた影響もあって、ヒロイックな和音進行になったかもしれません。それが却って功を奏し、華ヤカで刹那的な雰囲気が出たかな、と思います。(弘田)

【楽曲解説】05_Circulation

自分が唄ったとは思えないこのコーラスの物の怪振りたるやよし(笑)。弘田さんの楽曲は時折どんな形に仕上がるのか全く判らないまま、ただ言われるままに唄う曲、というのがありますが、まさしくこの曲がそれでした。仕上がりを聴いてあまりの変身ぶりとかっこよさに脱帽。まるで蝶の蛹からの変化のようでございました。(みとせ)

唄ものが小説だとすると、インストゥルメンタルの2曲は、その挿絵やイラストを描くような気分で作りました。「Circulation」とは、循環、血行というような意味合いです。帝都を循環する睡晶エネルギー。睡晶を工業利用するために、発電所や化学プラント、溶鉱炉などの施設が力強く稼働している、そんなシーンを想像しつつ、最初は20分くらいの曲を構想していたのですが、唄もので濃厚な曲がたくさん出来上がったので(笑)比較的短めにまとめました。(弘田)

花魁といえば

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TEAMライヴの際に着ていた緋色の着物はみとせ私物なんですが(十代の頃母が買ってくれたのです、我が母ながらすごい趣味)、帯はたぶん祖母の若い頃のもので、帯留は実はあれ、「刀の鍔」です。画像が当日つけていた帯と帯留、帯締めです。

かつて廃刀令で長物が消えたとき、当然刀の鍔も無用となったわけですが、その刀の鍔と、刀に巻いていた下緒に注目したのが花街の花魁たちでした。おそらく体制への反骨精神みたいなものもあったのだと思うのですが、鍔を下緒で括って帯に飾ったのです。で、それが目新しくかっこいいと言われ、そのまま市井へ流行として流れ、「帯留」のルーツになりました。花魁は当時のファッションリーダーだったのです。

ファッションとしてのかっこよさもありますが、みとせはそれよりその花魁たちの発想や精神にロックやパンクの魂を感じます。というわけで、ロック魂溢れる花魁たちに敬意を表し、ライヴ当日は花魁を真似て刀の鍔を帯留にさせて頂きました。え?なんで刀の鍔なんか持ってるのかって?・・・・・・ただの趣味です。(断言)

【楽曲解説】04_異界の底に棲むモノは

こんな曲に化けるとは全く思っていませんでしたシリーズその1、通称#花魁。苦界に生きる遊女の悲しさつらさ儚さと、芯の強さをメモに託して渡したら、いきなり花魁ロックに大化けしてきて度肝を抜かれました。開き直って”三千世界の鴉を殺し~”などと吟じる「都都逸ロック」に仕立ててみました、高杉晋作様に感謝。弘田さんの「すごーく悪い女でお願いします」というディレクションにわたしなりに必死で応えてみたのですが、所詮はみとせのりこ、絞ったところでにくと色気はなかりけり。主様どうぞこのくらいで勘弁しなんして。(みとせ)

イントロや間奏部分に付けたコーラスパートに、みとせさんが「Padma(パドゥマ)」という言葉を当てて下さいました。インド、東南アジアの言葉で「蓮(はす)」の意味です。蓮は、泥沼に根を張り、緑の大きな葉を水面に浮かべて、夜明けとともに「ポンッ」と音をたてて、とても美しい大輪の花を咲かせます。泥沼にしか咲かない美しい花。花街に生きる女を歌うこの曲に非常に合うなぁと思っています。サウンドは轟音ロックで、レコーディング時、あまりの激しい演奏にベースのピックが削れすぎて一枚潰れてしまうほどでした。ライブで盛り上がりたい一曲です。(弘田)